Degi Hari

 

「人生ってなんなん…」と池アイコはため息を吐き出すように言った。つぶやきにも似たその言葉に、ボクはなんて答えたらいいのかわからなかった。彼女はブレンドコーヒーのカップを置いて、ガトーショコラを口に運んだ。ここのガトーショコラはどっしりとした味で好評を得ていた。ボクはチーズケーキを食べるつもりだったけど、あいにく売り切れだったので、ロイヤルミルクティーに砂糖を5杯入れて、デザートドリンクにしていた。

 

彼女は明るくて前向きで頑張り屋だ。ほとんどの人は彼女に対してそんな印象を持つだろう。そんな彼女がこぼした言葉は、ガトーショコラと一緒に飲み込まれてしまったかもしれないと思ったけれど、間違いなくその言葉は発せられていたし、聞き間違いではなかったと思う。ブレンドコーヒーと、ガトーショコラと、甘いロイヤルミルクティーが、沈黙を埋めてくれた。店内にはRADIO HEADが流れていたこともあって、雰囲気を変えるために明るい話題を振るわけにもいかない気がした。ボクはロイヤルミルクティーをたまに口に運んで、彼女の次の言葉を待つことしかできなかった。

 

外に出ると日も暮れてきて、少し冷え込んできたような気がした。きっといつもはビル工事や車の往来で、賑やかでノイジーなはずなんだろうけど、祝日の今日は、ネコの足音も聞こえそうなほど静まり返っていた。明日になれば町はいつものように動き出す。池さんにも、ボクにも、ネコにも、明日がやってくる。今日の夕飯は、あさりと菜の花のパスタを作ろうと思った。池さんもおいしいごはんを作って食べたら元気になるんじゃないかと思ったけど、今は言えなかった。